リレートーク

展示会をアップデートするために Vol.1

カテゴリー: リレートーク

■執筆者 (一社)日本包装機械工業会 大岩 将士

■執筆日時 2019年7月25日 

「日本の展示会は元気がない」という正体の無い漠然とした停滞感が漫然と蔓延し続け、にも関わらず強い危機感を持って現状を打破しようという機運が高まるわけでもない。これは何故か。出展者の商談機会と制作会社の商売の場を奪う「2020会場問題」も世間一般では「コミケの会場が使えないらしい」との認識。これは何故か。MICEの起爆剤になるIR誘致も「カジノ法案」呼ばわり。これは何故か。

モノの売買の場としての「見本市」から、情報発信にも長けた経済活動の場へと成長した「展示会」。その成長は何故止まったのか。展示会をアップデートする道筋は何処にあるのかを考えてみたい。

東京湾より望む東京ビッグサイト

画像:東京湾より望む東京ビッグサイト

思うに、展示会産業は日本の経済成長の勢いに乗って半ば自動的に一定水準まで成長してしまい、その状態から自己成長が出来ていないのだ。各産業の業界団体が「おらが村」の祭りとして展示会を開催していた古き良き時代。それは良い。ビジネス価値が見出され、展示会主催会社が台頭。それも良い。関連展との併催や統合。それも良い。招待状バラマキを集客活動と称し、事故が起きないことだけを願いながら会期3日間を過ごし、見た目の来場者数に一喜一憂し、「今年は天気が悪かったから仕方ないね」でシャンシャン。それも良い・・・わけがない。言い訳の余地もなく、良いわけがないではないか。

「出展効果は後々に出てくるから効果を数字で出しづらい」ふむ。「アンケートで“満足した”が7割」ふむふむ。「集客戦略でTwitterとFacebookをやってみたが効果が無かった」ふむふむふむ。「近隣のホテルと飲食店の売り上げに貢献している、これが経済効果だ」ふむふむふむふ・・・む?いやいや。全然ふむふむじゃない。それで良いわけがない。言い訳の余地もなく、良いわけがないではないか。

デジタル広告の効果測定がリアルタイムで可視化される今時分、費用対効果の不明瞭な投資では応えてもらえないのは当然である。展示会よりもGoogleの検索広告を出した方が売上も株価も上がるなら展示会に出る義理がない。いや、出る理由が義理しかない。そんな産業がいつまで通用するだろうか。

なぜ展示会産業は成長していかないのか。「展示会を主催する業界団体は“展示会産業”に所属していない」という事実は事由のひとつだろう。彼らは自分達の産業の活性化のために活動しており、展示会はその目的に対する手段でしかない。展示会産業の栄枯盛衰に直接の関係も責任もないのだ。業界団体の公式の場で「展示会のトレンド」「施工会社の職人不足」に触れることはないだろう。

では展示会産業を支えているのは誰か。まず展示会主催専門会社がいるだろう。さらに業務推進に関連する施工会社・制作会社。もちろん展示会場。会場周辺の料飲・宿泊施設は直接属していないものの、インフラとして欠かせない。彼らは当事者意識を持って展示会を盛り上げようとしている。では展示会産業の発展に協力的でないのは誰だ。残念ながら、他ならぬ、展示会を主催している業界団体ではないか。彼らからすれば展示会産業の出来事は他人事なのだ。そして停滞し、ゆっくりと衰退していく。

業界団体が主催する展示会は大抵が1年に1度か2年に1度。3年や4年に1度という展示会もある。するとどうなるか?「○年に1度の業界のビッグイベント」なので失敗ができない。リスクを排除する。前例を踏襲する。挑戦しない。成長するための実験の場が無いのだ。かつ、失敗してもトップたる実行委員長は大抵展示会を1回こなせば交代。失敗できない上に、失敗しても責任を求められない。これで革新的挑戦を行う者がいるだろうか。いるはずがない。「我々の業界団体(展示会)の利益に直結するかどうかは分からないけど、展示会産業の成長の為に必要だ」というマインドで展示会運営に携わる人物が主催者組織にいたら?そんな危険人物に大切な業界のビッグイベントを任せることは出来ないだろう。総スカンである。出る杭は打たれるのである。そして停滞し、ゆっくりと衰退していく。

幕張メッセ

画像:幕張メッセ

ここからが漸く本題である。要約していこう。これが業界への用薬になればいいのだが。

上述のように「業界団体に当事者意識がない」「自己成長しない」の2点が課題だとする。その課題はどう解決するのか。私は、業界団体が手を取り合い、運営の実務に就く事務局が相互にナレッジ(成功体験・失敗体験)を共有しあう仕組みとして「展示会事務局の塾」が必要なのではないかと考える。

例えば、近年徐々に浸透しつつある「展示会アプリ」のようなデジタル施策。その存在は当然認知していながらも「どう使えばいいのか分からない」「費用対効果は?」「運用できる人的リソースが無い」などのネガティブ要素があって採用に至らない主催者は多いのではないか。

そこで、先ず挑戦的な主催者がファーストペンギンとなって飛び込んでみるのだ。すると沢山の成功体験と失敗体験を積むことができる。機能の要不要、広告費の設定、スケジューリング、周知方法、等々。様々なナレッジを得る。そしてそのナレッジを「塾」で共有する。後に続くものはファーストペンギンの成功と失敗を参考に施策をカスタマイズする。3番目、4番目と続く。するとどうだ、ファーストペンギンが次の展示会の運営を開始する頃には展示会を3度も4度もこなしたナレッジを得ているではないか。嗚呼、やんぬる哉。なんという好循環!

自己成長できない組織は自己成長を諦めればいい。周りにいる同志に成長させてもらえばいい。その代わりに自分もみんなの成長の一助となるのだ。これは何も難しいことでも革新的なことでもない。「情けは人の為ならず」という言葉を我々は知っている。難しいことがあれば故事に返ればいいのだ。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い換えてもよい。否、よくないが。

ひょっとすると「そんなこと出来るわけがないだろう」と言われるかもしれない。「少しは現実的なことを考えろ」と。が、しかし。逆に考えていただきたい。何故、出来るわけがないのか。

当たり前のことだが、「同じ時期」に「同じ地域」で「同じ業種」の展示会を「異なる業界団体」が開催しているなどということは無い。当然だ、誰にも利益が無い。「関連する業種」であれば、むしろ相互に来場者増に繋がると既に手を取り合っているかもしれない。更に当然のことながら、業界団体が主催する展示会は自分達の産業の専門展に限られる。玩具メーカーの業界団体が日本酒の展示会を開催することはない。(もしあるなら是非見てみたい)同じ業種の展示会を主催している団体は大抵開催年度や地域が異なっており、産業をお互いの立場で活性化させている隣人である。バーターブースを出し合っているケースも多いだろう。つまり、同旨の業界団体同士は同志であり導師になり得るのだ。敵にはならない。ましてや全く異なる産業の業界団体は言うまでもない。で、あるならば。相互に成長しあうことが出来ないわけがない。業界団体主催者展示会は、相互に成長しあうことが出来るのだ。

そしてもう1つ。「展示会の出展効果」という数字から逃げてはいけない。このコト消費の時代に、展示会だからこそ得られる成功体験を提示できないのでは、サービス提供者としての責務を放棄していると言われても否定できないではないか。A社は新規顧客との商談が何件発生したのか。その商談でどれだけの売上が見込まれているのか。B社はどうだ、C社はどうだ。D課長とE係長はそれぞれ何人と商談したのか。成約率は何割か。その差は何だ。「この展示会で名刺を○○枚集める」という曖昧模糊とした「出展効果」しか出展者に提供できない商談空間であることはもうやめよう。F社に来場者は平均何分滞在したのか。G社とH社はどちらが多くの来場者が訪問したのか。その違いは何なのか。どういうブースは集客力が高いのか、きちんと数字で語ろう。語れるようになろう。小間位置なのか、小間サイズなのか、装飾デザインなのか、出展物なのか、ステージ演出なのか、コンパニオンなのか、ノベルティなのか。

もちろん、一朝一夕で算出することはできない。非常に莫大な労力とコストと期間と機会を必要とする。が、しかし。他の広告媒体はとっくに実践していることに過ぎない。「視聴者が何人いるか不明ですがうちの番組にCMを出してください」というテレビ局の営業マンはいないだろう。確かに、これまではやってこなかったし、できなかった。複数回の展示会で膨大なデータを収集し、解析し、また収集し、また解析し、PDCAを何度も何度も回して漸く見えてくるものだろう。しかし、それは今や決して不可能なことではない。展示会におけるデジタル施策のバリエーションが増え、効果を測定する準備をコンテンツ制作会社側は既に備えているのだ。これは何も難しいことでも革新的なことでもない。「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も。成らぬは人の、為さぬなりけり」という言葉を我々は知っている。難しいことがあれば故事に返ればいいのだ。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い換えてもよい。否、よくないが。

さて。ここまでお付き合い頂いた皆様に是非とも知っていただきたい展示会がある。業界団体が主催する展示会でありながら、果敢にも展示会アプリの採用に踏み切り、新たな収益モデルを探りつつ出展者と来場者が直接つながる場を提供し、更に、商談マッチングを実現するサービスも活用して事前のアポイントメント取得によるビジネスマッチングの促進で、展示会の営業活動を会期の3日だか4日だかから何倍もの長期間に伸ばし、他にも招待状をデジタルインビテーション化やウェブサイトの出展者情報ページを細分化することで来場者に刺さる情報発信を促進するなど、非常にアクティブでチャレンジングな展示会がある。

名をば「JAPAN PACK -日本包装産業展-」となむ云いけり、「包む」にまつわる様々な産業から多くの企業が出展していると聞いた。なんでも来場者の課題を解決する「包程式」を可視化しているようで、2019年10月29日から11月1日まで4日間、幕張メッセの2ホールから8ホールまでを使用して開催される大型展示会らしい。主催者は(一社)日本包装機械工業会という業界団体らしいが、その固そうな名前に似合わず非常にイノベーティブな試みを実践しているとのことだ。おそらく「我々の業界団体(展示会)の利益に直結するかどうかは分からないけど、展示会産業の成長の為に必要だ」というマインドで展示会運営に携わる人物が主催者組織にいるのだろう。そんな危険人物が今後どんどん増えていけば、必ずや展示会産業は再興し最高の催行となるだろう。一体どのような展示会が開催されるのか。今後どう成長していくのか。是非とも展示会に足を運び、その目で成果を確かめて欲しい。

・展示会公式ウェブサイト:https://www.japanpack.jp/

・公式アプリダウンロード:

というわけで、最後に。イベント業務管理士の諸先輩方ならびに後輩諸賢。展示会という産業はこのようにまだまだビジネスチャンスが多く眠っており、プロフェッショナルなイベントディレクターが活躍するに相応しい場だと私は信じています。ご自身の能力と知見を活かすフィールドを求めている方がいらっしゃいましたら、是非ともその力を展示会主催者として活かしてください。ファーストペンギンも独りではただの危険人物です。しかし、束になればこんなにも心強いことはありません。私達の力で、展示会というイベントをアップデートしていこうではありませんか。これは何も難しいことでも革新的なことでもありません。「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」という言葉を私達は知っています。難しいことがあれば故事に返ればいいのです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い換えてもいいですね!否、よくないけど。

以上

※注 
本稿の記載事項は全て執筆者個人の見解であり、所属組織の見解および事例ではございません。