イベント警備の変遷
■執筆者 尾根優一
■執筆日時 2002年4月15日
私とイベント・興行との出会いは、1977年後楽園球場(現東京ドーム)での巨人軍の試合から始まりました。当時はイベント・興行の発展期とも言うべき時代で、スポーツの世界では巨人軍が長嶋監督の下、V1・V2達成、王選手のホームラン世界記録樹立などで、毎日溢れんばかりのお客様が球場を埋め尽くしました。また、エンターティメントの世界では、キャンディーズのさよならコンサートをはじめ、国内外のアーティストによるスタジアムコンサートの盛隆期を迎えたのもこの頃でした。従ってお客様対応は出来るだけ多くのお客様に催し物を観てもらう、楽しんでもらう事が第一でしたので、多数のお客様を如何に安全に誘導し、催し物を楽しんでもらい、最後に無事家路に付いてもらうことに神経を使ったものでした。また、各会場で消防機関から会場管理計画作成に関して、強い指導がなかった頃は、定員管理などの認識が甘い主催者のイベントでは、定員よりはるかに多くのお客様が来場、将棋倒しなど死傷者がでる事故も起こりました。そんな時代を反映してか、警備業法改正を機にイベント・興行における整理・誘導業務は警備業務である、という警察機関の見解を受け、当社が警備会社としてスタートしたのもこの時代でした。
<ディズニーランドの出現>
1983年東京ディズニーランドがオープン、それまでの日本に全くなかった「顧客本位・顧客満足を徹底的に追求した」テーマパークの出現は様々な面でイベント・興行の世界にも強烈な影響を与えました。ディズニーランドの顧客第一主義は、新たなドーム・スタジアム・アリーナなど大型多目的施設の施設担当者やイベント主催者の方々より、お手本としてお客様対応を実施する様言及され、従事者の教育研修方法に知恵を絞ったものでした。ディズニーランドを訪れた際、キャストの方々のパフォーマンスにオブラートされた、お客様の誘導やパレードの道筋など「安全」に力を入れているな、と感じていたものでしたが、昨年JEDIS主催のセミナーで株式会社オリエンタルランド・栄マネージャーの講演中SCSEの話しを聞き、我が意を得たり、と思ったものです。
<イベント警備は雑踏警備>
イベント・興行では何故事故が起きやすいのか?その答えは「雑踏」と「群集」という二つのキーワードにあります。不特定多数の人々が一時的に限られた場所に集まり、群集心理が渦巻くところには無責任性、無秩序性という最大の警戒すべき芽が内包されており偶発的な要因で将棋倒しや急病人、集団暴行行為など危険な状態になるのです。この危険な芽を摘み取る為には、事前の警備計画書・会場管理計画書などを細かに策定すること。普段から警備員の教育・実施訓練を継続して実施すること。警察機関・消防機関・主催者などと緊密な連携をとること。警備現場における責任体制と指揮命令系統の一元化をはかること、通信手段を十分確保すること。などが重要指針として挙げられます。
<安全神話の崩壊か>
安全と飲み水はタダ、というのが我が国のちょっと前までの常識でした。今でもイベント総予算の中で警備関係費は、特殊な事情がない限り、出来るだけ必要最小限で、という予算割り振りが多いと思われます。確かに警備関係費は何も起きなければ、結果的にムダ金と思われ、事故が起きた時には逆にお金をかけていれば、と後悔する、というのが世の常となっています。しかしながら、昨年7月に起きた明石市花火大会雑踏事故、9月に世界中を震撼させた米国多発同時テロ事件、その他国内においては、犯罪の凶悪化・国際化などの治安情勢の悪化は、我々の安全に対する認識を根本から揺らすものでした。これら情勢の変化は、今後警備需要が増大する要因になると共に、警備会社に対し、その会社・隊員の資質などに厳しいチェックの目が注がれ本物だけが残る、という淘汰現象が予測されます。また、イベント警備は主催者の自主警備が中心となって行うべき、との警察機関の指導がますます強くなっていくと思われます。イベント警備において「安全」と、ともすれば矛盾するイベントの「円滑」の融合を如何に図るか、そして、自主警備の最大の目的である「混乱を生じさせない事前予防の徹底」は、私の「永遠のテーマ」であります。これからも、安全を提供し、楽しく・観て・感じて・体験して・喜んで・感動してもらうサポーターでありたい、と思います。みなさん、くれぐれも、油断は禁物ですぞ‥
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* プロフィール*
1952年 北海道・函館市生まれ
早大政経学部出
1977年(株)シミズスポーツ装飾センター(現シミズオクト入社
イベント・興行の運営・警備・装飾分野及び施設管理業務を経験、六年間広告代店SP局に出向。モットーは、今までの色々な経歴を活かし、今後もイベントを上の立場から、下の立場から、斜めの立場からと様々な視点で観察する事。