「こちらはいわき・・・・・」

■執筆者 東北地域本部長 森 絵留
■執筆日時 2008年12月16日
 
■ 私は、4歳から舞台俳優だった。
青年期には、テアトル・ドゥ・ラ・マンドラゴール・ド・パリの、かなり
とんがったパフォーマーになって、世界中の舞台に旅する予定・・・・・が、
スカウトされ、東北最南端の小都市、福島県いわき市に、やってきた。
芸術家の集落を創る、「銀河構想」という、「お話」が、気に入って。
・・・・27歳だった。

あれから、27年。
結局、お誘いするまでもなく、いろんなジャンルの芸術家たちが、勝手に
やってきて、いわきに住み着いている。
きっと、居心地がいいからだ。

いわきは・・・・・
・他人に干渉しない。
・拒絶しない。
・海、山、里、街、渓谷、温泉・・・・日本の風景、食べ物がすべてある。
・芸術作品の発表の場があり、支援者がいる。
・東京に近い。

そしていわきは、女優だった私を、イベント プロデューサーにしてしまった。

■  ここが、他の小都市と違うところは、完璧な横社会だということ。
敬語も謙譲語もない。
人々が、みな平等で、一人ひとりに力があるのだ。

(これはこれは、また、お世辞を言ってしまった・・・。プロデューサー
になってから、どうも口が上手い。)

いわき市民は、相手が、上司であろうと顧客であろうと、言うべきことは
言う。
会議になるとすごい。全員が必ず自分の意見を発言し、一歩も引かない。
最後まで、だれの意見も聞き入れない。
それなのに、まとまる!
つまり・・・・・
「お前の言うことはわかった。俺とは違う。だら、やったらいいべ。俺も
やっから。」
と、決まってこの結論になるのだ。

■  みんなの希望を叶えるためには、力も要るし、お金もかかる。

人口わずか36万のいわき市だが、市立の劇場だけで、9つもある。
みんなの希望を受け入れた結果だ。

クラシック専用コンサートホールが、大中小、各1つづつ。
アグレッシブな可動式の演劇専用ホール、自在に使える多機能付き平土間
の小劇場のほかに、各町に、キャパ千人前後の多目的ホールが全部で4つ。

そして、どのホールも、驚くべき稼働率の高さ!

このご時勢にもかかわらず、億単位の文化芸術予算は意地でも減らさない、
という市長の考えに、みんな大拍手。

そのほかにも、美術館、民間のホール、サロン、公民館、体育館、公道、
私道、海岸、ショッピングセンター・・・・・ありとあらゆるところで、日々
繰り広げられるイベント。
なにしろ、この街のコンセプトは、「イベント交流都市いわき」なのだ。

だから、市を挙げてイベントを奨励し、民間イベントに、お金でも情報で
も提供する。
それぞれの課では、実験的イベントの実践を義務付けられているから、行
政マンも、敏腕プロデューサーになる。

大体、40年も前に、閉山した常磐炭鉱をハワイにしてしまった人たちな
のだ。
ちょっと、太刀打ちできないくらい、アグレッシブ!

■ いわきと付き合うためには、みんなの願いを叶えましょう、という姿勢で
いないとね。

「このイベントは、なぜ? だれのために? やるのだろう。」 
そこを、外さないこと。

そんなこと出来っこない、と、毎日思うけれど、それでもやろうと決めて
いる。
すると、知恵が湧いて、協力者が現れて、必ず前に進める。
それで、力をつけてきたのかもしれない。

イベントは、面白い。
人、もの、空間、時間・・・・そういうものをつなぎ合わせて、「今」は、こ
れしかない、という形に出会うときの感動! 不可能だったことが、うわ~でき
ちゃったよ、という感激。人々の笑顔に出会うときの幸福感。
そして、イベントには、時に、社会を変えてしまうほど、力がある。

俳優という、自分が表現のコンテンツであるという厳さより、今の厳しさのほ
うが、性に合っているかもしれない。

いらっしゃいませんか? 敬語のない、いわきに。