日本の醸造祖神 「松尾大社」の酒と醸造イベント ~京都洛西「松尾大社醸造文化顕彰会(醸(じょう)の会)~
■執筆者 平家良美 Jedis関西地域本部・理事
■執筆日時 2020年4月20日
はじめに、「大恐慌以来最悪の不況、IMF見通し大幅マイナス成長」(朝日新聞20200415)
という、恐ろしい見出しが飛び交う昨今である。人類が経験したことのない未曾有の新型コロナウイルス感染問題が世界を席巻している。ある人は“第3次世界大戦”とまで言われている。全国に「緊急事態宣言」出され、あらゆる分野に規制の網が掛けられた。ご多聞に漏れず、私が非常勤を務める大学、専門学校も多大な影響がある。授業の開始目途が立たないのである。催事もしかりである。そんな中ではあるが、筆者が設立時よりプロデュースしていて、7月に20年目の節目を迎える「松尾大社醸造文化顕彰会(以後、「醸の会」と称する)について、述べてみる。
■「松尾大社 醸の会」とは(「京都大学元総長・名誉教授 松尾大社醸造文化顕彰会初
代会長 岡本道雄『醸の会』発足によせて」より)
「京都洛西に鎮座する松尾大社は、京都最古の社、また、日本第一醸造の祖神として多くの人々の厚い信仰を集めてきました。特に、全国の酒造家や、醤油、味噌、酢などの製造及び販売業者の方々から格別の尊崇を受ける社として有名であります。その松尾大社が平成13年(2001年)に御鎮座千三百年を迎え、この佳年を記念し、松尾大社醸造文化顕彰会(醸の会)を設立することとなりました。
本会は日本文化の中で醸造の占めた役割や貢献を念頭にし、醸造文化の顕彰と後世へ継承することを目的とした、全国組織であり、醸造に携わる方々や愛好者の方を対象にした、広くひらかれた会であります。」
■概要
「醸の会」は平成13年(2001年)に設立され、本年で早20年を迎える。思えば、松尾大社前宮司佐古一冽様より相談を受けたことから始まった。丁度、「京都・平安建都千二百年記念祭」を前年に行い、設立準備は、この年から始まった。「松尾大社創建1300年記念に日本の伝統文化である醸造文化を後世に伝える会を創りたい」という、佐古宮司の熱き想いが我々を動かしていったのである。「本会は日本文化の華である醸造製品を見直し、醸造文化を盛り上げていくことを目的とした意義深い会とする」とある。
そこで、日頃から親しくご指導をいただいていた京都大学元総長の岡本道雄先生にご相談をし、本会は始まった。歴代会長には、初代岡本道雄京都大学元総長、二代目家森幸雄京都大学名誉教授、現在は三代目会長 尾池和夫京都大学元総長・現 京都芸術大学学長にご就任いただいている。
会では、毎年、会に相応しい先生方による講演をいただき、全国の名酒を飲みながら「醸寿膳」をいただき、伝承伝統文化を継承していくという楽しく、開かれた、崇敬な会である。入会条件は「お酒が飲めること」、である。 毎年苦労をするのは、講演者選びである。会の趣旨を理解して下さる方で、時勢にふさわしいテーマで、且つ、一流の著名人にお願いしている。そんな条件の方は難しいのである。因みに、これまでの講演者は以下の通りである。
■歴代講演・対談者(敬称当時のもの)
第1回 | 「日本酒の効能」 初代会長 岡本道雄先生(京都大学元総長) |
第2回 | 「醸造文化と世界の長寿食」 家森幸男先生(京都大学名誉教授) |
第3回 | 「日本酒とブランド戦略」 柳原範夫先生(京都産業大学大学院教授・副学長) |
第4回 | 「家森流 長寿食の秘訣」 家森幸男先生(第2代会長) |
第5回 | 対談「体と心にやさしい食談義」 辰巳卓郎様(俳優)×家森幸男先生(第2代会長) |
第6回 | 対談 「お酒と笑いとおいしいもん」 尾池和夫先生(京都大学総長)×家森幸男先生(第2代会長) |
第7回 | 「世界に誇る醸造文化」 小泉武夫先生(東京農業大学教授) |
第8回 | 「私と食修行・体験 家庭料理・フランス料理、そして・・」土井善晴(料理研究家) |
第9回 | 「宮廷行事と日本酒」 所功先生(京都産業大学大学院教授) |
第10回 | 「醸造文化の歴史と未来」 小泉武夫先生(東京農業大学教授) |
第11回 | 「源氏物語を語る」 中野良子さん(女優) |
第12回 | 対談「二人で語ろう~水が育むよいご縁~ 」近藤正臣様(俳優)×尾池和夫先生(第3代会長) |
第13回 | 「祭り、そして酒」 佐古一冽先生(松尾大社名誉宮司・皇學館大學理事長) |
第14回 | 「和食と日本酒」 石毛直道先生(国立民族学博物館元館長・文化人類学者) |
第15回 | 「旅と出会い」 市田ひろみ先生(服飾研究家) |
第16回 | 「サルが作れなかった酒と社会」 山極壽一先生(京都大学総長) |
第17回 | 「妖怪文化と日本酒」小松和彦先生(国際日本文化センター所長) |
第18回 | 「醸造食とアンチエイジング」 吉川敏一先生(前京都府立医科大学学長) |
第19回 | 「和歌と酒、切っても切れない話」 永田和宏(京都大学名誉教授) |
第20回 | 「日本料理の出汁とおいしさ」 伏木亨先生(京都大学名誉教授・龍谷大学教授)(※予定) |
■醸寿膳について
日本の伝統文化である醸造食品を用い、和食の良さを提唱しながら長寿と心の健康を考慮した膳。第2代会長 家森幸男先生監修からスタートし、その趣旨を受け継いだ和食を提供する。
■アーティスト出演者
クラッシック、フォークソングソロ、中国音楽、落語(桂都丸他)、和太鼓チーム、仕舞、長唄、アンデス民謡、民謡チーム、沖縄島唄とエイサー、奄美徳之島歌と演奏、日本の名曲シリーズ、マーチングバンド、W津軽三味線、阿波踊り、アンサンブルSHOUWA他
こんな会を毎年開催しているが、企業協力は欠かせない。日本各地の献上酒、名酒、焼酎、豆腐、酢、乳製品、豆乳ヨーグルト、抹茶スイーツなど、盛りだくさんの企業協賛をなおらいや、記念品としてご提供ただいている。会は年々、盛んになり、参加希望者が多く、会場の関係でお断りしている。
このように、「醸の会」では、1300年続く松尾大社の伝統行事を中心軸に置きながら、醸造文化を食べ尽くすという、“大人のoff time”を演出している。誠に贅沢な会である。日本の醸造文化顕彰のために、各地で「醸の会」が開催されることを望むものである。
写真提供:松尾大社©房野光