「訪日外国人とLCC」
■執筆者 JEDIS理事 田中康資
■執筆日 2015年10月27日
最近、街で外国人観光客を多く見かけるようになった。そして、いわゆる「爆買い」によるインバウンド消費が日本経済に与える影響も大きくなってきた。その一方、国内出張でホテルを予約したくても満室で、またビジネスホテルの価格もシティホテル並みに上昇していることを経験した方も多いのではないだろうか。
今回はこの訪日外国人の増加と、格安航空会社(以下 LCC)の関係について考察してみたい。
APJ 関空 T2 国内線待合室 | APJ 関空 新自動チェックイン機 |
APJ 関空 搭乗の様子 | APJ 機材 |
2015年1月-6月の訪日外国人は過去最高の913万人となり、前年同期比46%増加した。
中国が前年同期比ほぼ倍増の217万人、韓国は43%増、台湾29%増となった。従来中国は、 春節・国慶節など長期連休に絡む訪日日程であったが、今年は4月の花見など、通年で増加していることが特徴である。
政府では2016年までに2,000万人、2019年までに2,500万人の訪日外国人を目標にしているが、いよいよ2,000万人(2014年1,341万人)が視野に入り、現実のものとなりそうである。
アジアのゲートウェイ、関西国際空港(以下 関空)では、急激な訪日外国人の増加で終日混み合っており、到着便が重なる時間帯の空港内は日本人より外国人の方が目立つことが多い。関空の2015年度上期(4月-9月)の実績では、国際線と国内線の総旅客数は前年同期比23%増の1,197万人で過去最高、また国際線の旅客数は28%増の838万人で、これも過去最高を記録した。このうち外国人旅客は65%増加し、過去最高の532万人となった。一方で、日本人旅客は6%減の298万人で、上期としての前年割れが3年続いている。航空機の発着便数については、国際線旅客便は26%増の4万9,451回で、過去最高を記録した。
訪日外国人増加の理由として、円安、ビザ発給要件の緩和、中国の中産階級層が急速に厚みを増してきた事などが指摘されているが、急拡大するLCCも大きな影響を与えていると思う。LCCの新規参入・路線増・便数増により、供給座席の増加と価格の選択肢が増えたことで、海外旅行のハードルが下がったことも原因の一つである。国内線のLCCについても、長距離バス感覚で安価な航空便を利用する客層が拡大している。
関空では2012年10月に本邦初、LCC専用の第2旅客ターミナルがオープン、また成田空港でも2015年4月にLCC専用の第3旅客ターミナルがオープンした。成田の初年度利用客は550万人を見込んでいたが、600万人に迫る好調ぶりである。航空会社が空港運営会社に支払う施設使用料は、既存ターミナルの半額程度という利点があるものの、LCCは航空機をより多く飛ばして収益をあげるビジネスモデルであり、成田空港は原則23時から翌朝6時までの離着陸が禁止されているため、この制約がLCCにとっては障害となっている。
本邦LCCはPeach Aviation、バニラ・エア、ジェットスター・ジャパン、春秋航空日本に続き、エアアジア・ジャパンが来年4月から中部空港を主基地とし、日本に再参入を表明した。
海外のLCCでは、今年シンガポールのスクート航空が関空、12月には台湾のVエア航空が中部空港に新規就航を予定するなど、日本路線への新規参入が相次いでいる。
関空の2015年冬ダイヤでは、LCCは週339便と前年同期比1.8倍まで急増し、LCC比率は3割を超えた。また韓国イースター航空が釜山線を新規就航させるほか、韓国ティーウェイ航空がLCCとしては初めてグアム線を開設するなど、アジアを中心に関空から25都市への就航となり、特に関空-韓国線におけるLCC比率は6割を超える規模となっている。
今後さらにLCCの存在感は増すことになると思うが、これに伴って訪日外国人の増加にはLCCがさらに大きな影響を与えていくことであろう。